【106】

「もう すっかり 冬ですね」

朝の光をあびながら
じいが私に微笑み言う

あぁ と短く答えては
私も窓見て笑みこぼす

庭にそびえる大の木は
雪にまみれて真っ白に
優しい光が反射して
キラキラキラキラ輝いて
私はあの日を思い出す

冬が小さな涙と共に
少し優しくなった日を


*************


冬といえば水凍り
冬といえば木々枯らし
雪崩に吹雪に
静か過ぎる 世界です


そんなある日に散歩中
幼い王子は出会うのです

足跡残さず雪野原
彷徨うように歩く冬

何重にも巻いたマフラーずらし
「あのっ」 と声をかけたのです

冬は気づかず通り過ぎ
王子はトタトタ追いかけて

「あのっ あのっ
 冬さんですよね こんにちは」

虚ろで冷たい目を向けられて
王子は寒さに震えだす


眠たそうに冬は言う

「私が見えるということは
 あなたは王子 幼い王子
 一人で散歩は危険です」

「こんなに寒い今の時期
 誰も外を出歩きません
 逆に安全なのよねと
 お母様は 言っています」

「そう」 とつぶやき視線をはずし
冬は歩き出そうとしたのです
あわてて王子は呼び止めます

「あのっ」

「なぁに」

「どうしてこんなに寒いのですか
 ボクは外で遊びたいのに
 こんなに服を着ていては
 雪玉さえも作れません
 どうしてこんなに寒いのですか」

暫く王子を見つめて冬は
小さな彼が凍えながらも
真剣であること知ったのでしょう
今度はきちんと向き合って
重い口を開きます



「悲しいからです」


一言言うと吹雪舞い
長く銀の彼女の髪に
雪が 少し 絡まります

王子は不思議と風を感じず
護られている みたいです

「どうして悲しいのでしょうか」

「追いつけないから」

「誰かを追っているのでしょうか」

「愛する私の夫の秋です
 ずっと昔にケンカをしたきり
 仲が冷めて避けられました

 私のせいのケンカですけど
 どんなに謝ろうと思っても
 もう
 追いつけません
 もう
 会ってくれません

 永遠に許してくれないみたい
 こんな悲しみ耐えられますか」


お母様やお父様に許されない
そんな日々を想像したのか
王子は 「いやだ」 と泣き出しそうです

「だからごめんなさいね
 気温を直す気になれません
 吹雪を止ませる気になれません
 ごめんなさいね 悲しすぎてつい
 人々までも 巻き込みます」

王子は暫く考えて
パッと笑顔を向けました

「ボクの家に来ませんか
 温かいミルク飲みましょう
 一緒に秋さん待ちましょう」

笑顔が眩しすぎたのか
冬は目を細めて手で隠し
雪どけの水が頬流れます

「とても嬉しい提案ですが
 残念ながら無理なんです」

「どうしてですか
 ミルクが嫌いなのですか」

「飲んだ事はありませんが
 きっと優しい味でしょう
 そんな事ではありません」

「暖かい部屋がダメならば
 冷たい部屋をお貸しします」

「ありがとうございます 幼い王子
 ですがそれも違います」

「ならどうして…」

「私は秋を追うと同時に
 春から逃げているからです」

目を丸くし王子は言います

「冬さん大変なんですねっ
 どうして逃げているのでしょうか」


「…王子は寒いの好きですか」

逆に問われ王子は戸惑い
「それは」 と少し口ごもる

「雪は面白くとも吹雪はいや
 そう思っていますでしょう
 寒い日よりも暖かい方が
 王子もみんなも好きでしょう」

王子は赤くなりながら
何も答えられません

「春は全てを持っています
 人々に待たれ 歓迎されて
 私を融かして 人気者
 そんな春が苦手なの
 わかってくれないかもしれない
 でも私は会えません
 絶対会いたくありません」


吹雪が一層強くなり
冬の姿を隠します

憎悪の吹雪じゃありません
王子も泣きそうになるくらい
悲しい悲しい吹雪です

姿の見えない冬の頬を
また雪どけの水が流れてる
そんな気さえもしてきます

王子は眉寄せ叫びます
力いっぱい叫びます

「ボクが秋さん待っていますっ
 冬さんの代わりに伝えますっ
 無視されようとも伝えます
 一生懸命伝えます
 冬さん諦めないでください」


王子の声に反応し
吹雪は少し止みました

再び見えた冬の目は
また冷たく虚ろになっています

「そう」

眠たそうに冬は言う

「頑張ってください 私はもう
 疲れてしまいましたから」

そのまま冬は足跡付けず
雪野原を渡っていきます



王子が一人になった頃
吹雪は止んでチラチラと
優しく雪が舞っています

冬が言わないお礼を既に
雪が伝えているのです


王子はすぐさま城に行き
お母様とお父様
三人で楽しく 雪遊び



その日は特別 雪遊び
誰もが驚く素敵な日
とても優しい
冬の一日


---【冬】
早帆

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